2008年度公立高校入学者選抜要項・募集定員に対する見解と要求

行き詰まる府・市両教委の高校減らしと「特色競争」
教育の「格差拡大」ではなく、希望するすべての子どもたちに豊かな高校教育を

2007年9月8日 京都府立高等学校教職員組合執行委員会

1.2008年度入学者選抜要項の概要

京都府教育委員会と京都市教育委員会(以下、府教委、市教委)は、8月23日(市教委)、27日(府教委)開催の教育委員会で来春2008年度公立高校の入学者選抜要項と募集定員を決定し、28日に新聞発表を行いました。その概要は以下の通りです。

(1)募集総定員は1万4800人で、2007年度募集に比べて全日制140人増、定時制10人減で、合計では130人を増やしました。公立中学校卒業見込数は、前年度より南部は274人増加、北部は117人減少して、合計では157人増加して2万430人となり、公立高校全日制の収容率は、前年度と同じ72.4%になるとしています。

(2)普通科は、京都市地域では中学校卒業見込数が165人増加していることから、京都市北通学圏の鴨沂高校(一部東通学圏含む)と北嵯峨高校でそれぞれ I 類40人、京都市西通学圏の向陽高校で I 類40人が増えています。また、山城通学圏でも中学校卒業見込数が127人増加していることから東宇治高校と南陽高校でそれぞれ40人( I ・ II 類一括募集)増加しています。それに対して丹後通学圏では、中学校卒業見込数が92人減少していることから峰山高校と網野高校のそれぞれ I 類の定員を40人ずつ減らしています。

(3)定時制は、市立西京高校の定時制普通科を10人減らし、50人としました。

(4)職業系専門学科は、市立洛陽工業高校の総合技術学科の定員を20人増やし、180人としました。

(5)その他の専門学科では、新たに設置された学科はありませんが、嵯峨野高校の京都こすもす学科の人文芸術系統を人文社会系統に変更して、国際文化系統とくくり募集にしました。

(6)選抜制度では、市立日吉ヶ丘高校英語学科の通学区域を京都市地域などから府内全域に拡大したこと、山城通学圏の選抜制度において「普通科を第1希望とする場合、第3順位まで希望可能」としていたものを「第2順位まで希望可能」に変更しました。2006年度入試で新たに導入した「長期欠席者特別入学者選抜」は、朱雀・城陽・西舞鶴の3校で引き続き実施します。

今回の選抜要項には、子どもたちに豊かな高校教育を保障する上で重大な問題点があります。以下に私たちの見解と要求を明らかにするものです。

2.市内夜間定時制の定員削減の結果何が起こったか

第1の問題点は、昨年度、桃山定時制の普通科40人減、洛陽定時制の募集停止など、京都市内の夜間定時制を130人も減らしたことへの検証が全くされていないことです。その結果、市内夜間定時制課程の1次入試では、桃山(普通科)の1.6倍を筆頭に、朱雀高校、西京高校、伏見工業高校で募集定員を上回る志願者がありました。さらに2次募集では、126人の募集に対して175人が志願し、最終的に55人の不合格者が生まれています。

私たちは、府・市両教委に対しての申し入れの中で「入試では中学校の進路指導や本人の希望等が複雑にからみ、机上の計算通りには行かないことは従来の経験から明らかであり、多数の定時制不合格者が出ないという保障はない」こと、「募集が減らされた桃山・伏見工・洛陽工は府内でも人口の多い伏見区や宇治市・乙訓地域、山城南部地域をカバーしてきており、この3校が募集減・募集停止されれば、京都府南部で夜間定時制を希望する人が入学できなかったり、入学できても遠距離通学を強いられたりすることは十分予想できる」ことを指摘してきました。昨年度の入試状況は、私たちが指摘した通りになっており、府南部から京都市内北部の定時制高校に入学した生徒の中には遠距離通学に耐えられず登校しなくなった生徒も現れています。府・市両教委は、「夜間定時制に入学する生徒には不本意入学が多く、不本意入学を減らすためには全日制の収容率を上げることが必要」としてきましたが、定時制の減った分、全日制の枠を広げても定時制の志願者が減っていないという事実からそのような単純なものでないことは、今回の状況をみれば明らかです。

にもかかわらず、市立西京高校定時制普通科の定員はさらに10名減らされています。また、市教委は、市立高校定時制募集定員のうち半分を第2次募集で取るとしています。これは、定時制を全日制の不合格者の受け皿にしようとするものであり、第1次募集の合格者が半減され、定時制を第1志望にする者にとってより狭き門となり、不合格者を増やすことが懸念されます。

これまで夜間定時制は、勤労青少年をはじめ不登校などさまざまな事情で全日制に通えなかったり、高校を中退した子どもたちの後期中等教育を希望するすべての人たちに保障する場としての重要な役割をになっており、定時制高校の募集定員には余裕をもたせるべきだと考えます。定時制をつぶして安上がりの教育をすすめようとする方向性には反対であり、洛陽工業定時制の生徒募集を再開するとともに、市内夜間定時制の募集定員を少なくとも2006 年度並にただちに戻すことを要求します。

3.中学生のニーズとかけ離れている「特色学科」増設と普通科減らしの限界

第2は、私たちがこれまで再三にわたって指摘してきたように、いままで通学圏内の子どもが通う普通科の募集定員を減らし、いわゆる「特色学科」の定員を増やしてきたことが限界まできている問題です。

昨年度まで、全日制の募集定員は、減少し続け、その一方で「大学受験を目的とする専門学科」を次々と設置し、その定員を増やしてきました。とりわけ、毎年多数の不合格者(2006年度256人/14.0%、2007年度120人/7.4%)を出して、「他の通学圏より公立高校に入りにくい」といわれる京都市北通学圏(北区・上京区・中京区・右京区・下京区の1部)では、年々「特色学科」が増えて、2007年度は普通科定員1480人に対して「特色学科」は760人にもなっています。

これは府・市両教委が推進する「特色化」政策によるものです。府内全域を通学区域として広く成績上位の志願者を集めることに奔走し、適性検査で早期に選抜するなど、専門学科にしか認められていない?うま味?を最大限使っています。

しかしながら、このようにして数多く設置してきた「特色学科」も受検者数が減少する学科も目立ち、2007年度入試では、城南高校教養科学科、亀岡高校数理科学科、西舞鶴高校理数探究科で定員割れを起こしています。とりわけ、山城地域での高校再編として普通科をつぶして2007年度新しく設置した城南高校(2010年度入試で統廃合)の専門学科に及んでは、府教委が入試要項を発表後に西宇治高校との併願を認めるなど定員の確保にメンツをかけ、適性検査合格者は定員をはるかに上回る数を発表しておきながらこの事態となりました。城南高校は、普通科として一般選抜の平均倍率も山城通学圏のどの高校より高く、地域の学校として人気もありました。その学校が定員割れを起こしたことは、中学生の高校選びに新たな困難を持ち込むものとなり、大学進学に特化した「専門学科」などの「高校の多様化」が中学生のニーズとかけ離れていることを顕著に示しています。

2008年度の募集定員については、新たな「特色学科」を増設することなく、南部の普通科の定員を増やしているのが特徴です。

私たちは、これまでもこうした「特色学科」や中高一貫校の募集定員を増やし、地元の子どもたちが通う普通科を減らすことが、社会的格差の拡大につながることを指摘してきました。2004年度入試から通学圏を統合して普通科の通学区域を拡大した山城地域では、地元の高校に通えないことで高校進学自体をあきらめる子どもがあったり、中途退学する生徒の中で遠距離通学者の比率が高い実態が報告されています。また、授業料減免を受ける生徒が多い学校ほど大学進学率が低く、逆に授業料減免を受ける生徒が少ない高校ほど大学進学率が高いという負の強い相関関係があることも明らかになっています。これは、「家庭の経済力の差」が確実に「学力の差」を拡大していることを示しています。さらに「特色学科」などを選択できない、学力や経済面で困難をかかえる子どもたちにとって、高校教育を受ける機会が事実上狭められることを示しています。

今回も新たに市立日吉ヶ丘高校英語学科の通学区域を京都市地域から府内全域に拡大しました。このような専門学科設置にともなう通学区域の拡大が、学区制度と総合選抜を事実上なし崩し、セーフティネットの機能を喪失させていくことにつながると言えます。

丹後通学圏における普通科の定員減については、京丹後市の公立中学校卒業見込数の減少分を上回る数の定員を峰山高校と網野高校のそれぞれで普通科の定員を1クラス分40人ずつ削減しています。これにより、希望していても地元の高校に行けなく、京丹後市外へ通わざるを得ない生徒を増やすことになります。とりわけ北部地域では、通学に多大な時間と費用がかかり、経済的にも大きな負担かけます。地元の高校を希望するなるべく多くの受験生を受け入れることが公立高校に求められています。

4.「特色競争」「生徒集め競争」のもとで進行する公立高校のゆがみとモラルの崩壊

第3に、京都の公立高校で進行する異常なまでの「特色競争」「生徒集め競争」が、深刻なゆがみとモラルの崩壊をもたらしていることを指摘しなければなりません。

現在、京都の公立高校には、多くの「大学受験専門学科」が設置されています。それぞれが異なる学科名を掲げて、府内全域から「優秀な生徒集め」に奔走し、いわゆる「難関大学」への進学実績をどれだけあげるかを競い合っています。

昨年度、「特色学科」を立ち上げた山城高校において、進学塾主催の説明会を平日の授業中に高校の会議室を使っての開催を計画するということが起こりました。これは、公立高校が一部の塾関係者に特別な便宜を図っており、公立高校ではあってはならないことであると大きな批判を浴び、中止に追い込まれました。

しかし、今年度「関西私塾の会」という塾の経営者などが参加する任意団体からの要請を受け、山城通学圏を中心とする公立高校において、学習塾対象の学校説明会を開催し、守秘義務にも関わるような特定の入試情報を提供していることを疑わせる事態が発覚しました。これは、受験生や保護者に「塾でしか特定の入試情報を得られない」「塾に行かないと公立高校に入学できないのでは」という不安を助長し、中学校に対する信頼感を減退させることにつながります。山城通学圏における複雑な「バクチ」のような入試制度のもとで、中学生や保護者にとって主体的に高校を選ぶのではなく、「受かる高校選び」は困難さを増しており、いっそう学習塾の情報に頼らざるを得ない実態があります。少子化のもとで生き残りをかける受験産業のなかで、より「ランクの高い高校」へ何人入学させたかという実績を宣伝の売り物にしている学習塾と、少しでも「成績のよい生徒」を集めることで大学進学実績に結びつけたい高校の思惑が一致し、公立高校と学習塾の癒着が起こっています。これは、異常な競争主義が生んだゆがみを象徴しているのではないでしょうか。

府教委は、「塾の要請を受けて、学校が主体的に説明会を催したもの。学校公開でも説明する内容で、特定の塾だけに説明することはない」「『合格ラインをそっと示した学校も…(4月26日の京都新聞記事)』については誰がどの様に発言したのかわからない。校長会に対して厳重に注意した」と弁解していますが、このような疑惑を払拭できない責任が「特色競争」「生徒集め競争」に追い立てる教育委員会にあることは明らかです。

5.子どもたちをいっそうの競争に追い込み、学校間格差を拡大する入試制度改革

高校入試制度改革の実験場として先行している山城通学圏をはじめとする現在の高校入試制度についての分析と検証が十分なされないまま、府・市両教委は、「京都市・乙訓地域の通学区域・選抜方法の改善に向けて(案)」を策定し、その具体的施策化をすすめようとしています。その前提となった「京都市・乙訓地域公立高等学校入学者選抜に係る懇談会」(以下「懇談会」)においても、「具体的なデータをしめしてほしい」「専門学科と普通科の関わりを抜きに考えられない」「 I ・ II ・?類を取っ払っても良いのではないか」などの意見も出されました。現在の制度のもつ根本矛盾と問題は、議論すればするほど噴出しており、現行制度の問題点を十分分析しないままで結論だけを急いで、矛盾を競争と格差・序列化を拡大する方向で「見直し」をはかることには大きな疑問をもたざるを得ません。

また、「懇談会」の中学校長の委員からは、「行きたい学校に行けるのは一部の生徒で、遠くても行ける学校を選ばされる実態」「単独選抜では多くの不合格者が出る」「大学進学実績を基準にした高校の序列化の進行と輪切りの進学指導が強いられる」「高校間の格差が拡大、定着」「不合格を恐れて私学受験の増加」「通学費など経済的な負担増」などの弊害や問題点が数多く出されました。これらの懸念は、府教委の実験場として通学圏の拡大と単独選抜導入、高校再編が先行してすすめられてきた山城通学圏で実際起こっていることです。またPTA代表の委員からは「山城通学圏で起こっている学校間格差や単独選抜の弊害もあるように思う。山城地域でのいい点、弊害を聞きたい」との意見も出されました。まず山城通学圏で起こっている実態について、山城通学圏の子どもたち、父母、府民、現場の教職員の意見をしっかりと聞いたうえで、十分検証し、説明責任を果たすことこそ教育行政の役割のはずです。しかし、この要望にはまったく耳を貸さず、説明責任すら果たさないまま現在に至っています。

通学圏については、現行の4つの通学圏ではなぜいけないのかという説得力のある理由は見い出せません。また、「普通科 I 類・ II 類ともに通学圏を越えるシステム導入」で、実質的に1つの通学圏と同じはたらきをもたせ、より「学力」が高い中学生を特定の学校に集めることが可能となります。通学圏の拡大によって、より公立高校の格差が拡大し、序列化を加速させ、遠距離通学による経済的負担や高校生活への影響も懸念されます。また、「総合選抜制度」を一部維持するとはいえ通学圏を拡大し、通学圏を越えるシステム導入により、「総合選抜制度」の枠を小さくし、希望していても近くの高校に行けない子どもを増やす結果を引き起こします。

すでに山城通学圏や口丹以北の通学圏で導入されている「受験機会の複数化」「多元的な評価尺度」による選抜=「前期特色選抜」も大きな問題があります。山城通学圏の実態をみれば明らかなように、結局は成績がよく、部活動や特別活動を熱心にやっている一部の子どものみを青田買い的に早い段階で取ってしまう高校側の発想から導入されたものです。その結果、多くの子どもたちに不合格を体験させ、「不合格から一般入試にむけて立ち直るまでに 1~2週間はかかる」など、中学校生活やその後の高校生活にも影響を与え、「15の心をゆがませる」原因になっています。また、この不合格の体験が、その後の一般選抜(AT)における志望校選択にも影響し、希望校を変更するなど多くの受験生を悩ます結果ともなっています。さらに、「前期特色選抜」は、そもそも面接や作文など「競争選抜」としての客観性が保ちにくいものを利用していることやその配点基準も明らかにされないなど入試自体が不明瞭であるという問題も指摘しておきます。この点についても山城通学圏などの実態を明らかにし、その検証が必要となっています。

山城通学圏における入試制度は、私たちの指摘も受けて志望校の書き方が「第2順位まで」に変更されたことは改善と言えますが、府教委自ら「山城通学圏の入試制度が万全のものとは言えない」と認めているのであれば、抜本的な見直しをするべきではないでしょうか。

6.現行制度の破綻は明白、高校入試と高校教育改善のために次のことを要求します

私たちは、「希望する子どもたちに豊かな高校教育を保障する」という、公立学校として当然の責務を果たすために、当面次の点を中心に改善すべきだと考えます。

(1)現在、府・市両教委が発表した「京都市・乙訓地域の通学区域・選抜の方法の改善に向けて(案)」の方向による通学圏の拡大や入試制度の多様化をやめ、格差の拡大に歯止めをかける総合選抜制度の充実を図ること。山城通学圏の「バクチ」のような「単独選抜」入試制度および「前期特色選抜」をただちにやめること。適性検査など一部の高校に生徒集めの「特権」を与える制度をただちに廃止し、推薦入試を実施する場合はその基準を明らかにするなど、入試の透明化・公正化を図ること。子どもたちの中にいっそうの競争を持ち込む入試制度を改善するよう要求します。

(2)山城地域の高校統廃合、京都市内の夜間定時制の統廃合、北部での分校統廃合など、高校つぶしの諸計画やその計画策定をただちにやめること。子どもたちが安心して学べるよう、教育条件整備に力をつくすことを要求します。

(3)矛盾が深まっている全日制普通科の類・類型制度を廃止すること。多様な進路希望を持つ普通科での30人学級実現や多様な選択科目の保障など、教育条件の整備をすすめるよう要求します。

(4)夜間定時制減らしをただちにやめ、学級定員を20人以下におさえるなど、定時制・通信制の教育条件整備に力をつくすこと。学校現場の意見を踏まえた定時制・通信制教育の将来展望を明らかにするよう要求します。

(5)長期欠席者の特別入学者選抜制度は、当面実施校での努力を支えるための教育条件整備をすすめるとともに、一部の学校まかせにせず、どの公立高校でも受け入れられるよう早急に改善していくことを要求します。

(6)同一通学圏での普通科のクラス数のアンバランスを改善することを要求します。

(7)総合選択制導入など普通科のシステム変更や学科改編などは、あくまで学校現場の自主的な議論と研究を尊重すること。教育委員会が高圧的に押しつけることがないよう要求します。

(8)高校入試問題を議論する場として、以前開催されていた「入試選抜協議会」を再開させ、入試改善に向けて広く意見を聞くこと。高校制度にかかわる検討委員会や懇談会には、教職員組合の代表参加と、現場教職員の意見を取り入れた施策をすすめるよう要求します。

いますすめられようとしている入試制度改革の方向は、国連「子どもの権利委員会」の2回にわたる日本政府へ勧告の内容「競争意識をあおる教育制度が子どもの成長をゆがめている」にも逆行しています。私たちは、いっそうの競争原理の導入で「勝ち組」「負け組」を振り分けるという教育格差拡大の施策に反対していきます。今求められているのは、格差をいっそう拡大させることではなく、希望するすべての子どもたちに等しく高校教育の機会を保障することです。どの公立高校へ行っても、どの子にも確かな学力と発達を保障するという本来の高校教育を、地域の父母・府民と教職員が共同してつくりあげることが重要です。そのことを可能にする教育条件整備をすすめることこそ、今、教育行政に求められている重大な責任です。

私たち府立高教組は、多くのみなさんと力を合わせ、民主的な高校制度確立と入試制度の改善のために、いっそう努力することを表明するものです。

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