2007年度公立高校入学者選抜要項・募集定員に対する見解

府・市教委の高校べらしと「特色競争」の施策は明らかに行き詰まっている。いま必要なことは、教育における「社会的格差」の拡大ではなく、希望するすべての子どもたちに豊かな高校教育を保障することです。

2006年9月9日 京都府立高等学校教職員組合執行委員会

1.2007年度入学者選抜要項の概要

京都府教育委員会と京都市教育委員会(以下、府教委・市教委)は、8月24日開催の教育委員会で来春2007年度公立高校の入学者選抜要項と募集定員を決定し、26日に新聞発表を行いました。その概要は以下の通りです。

(1)募集総定員は1万4670名で、2006年度募集に比べて全日制160名、定時制100名の合計260名をへらしました。公立中学校卒業見込み数は前年度より367名減少して2万273名となり、公立高校全日制の収容率は、前年度から0.4ポイント上がって67.4%になるとしています。

(2)普通科は、 I 類120名、 II 類240名、単位制(西宇治)40名、総合選択制(京都八幡)20名が削減されました。一方で III 類(紫野・英文系)40名、中高一貫校(洛北)で中学校から高校への進学にともなう80名分が「類・類型を設定しない普通科」として増設されています。城南の専門学科設置にともなう普通科削減分は、山城通学圏内の5校に振り分けて募集します。また、洛北(理数・英語系→文理系)、北稜(文理系→文理・英語系)で II 類の類型変更があります。

(3)学科編成では、2006年度に続いて、いわゆる「その他の専門学科」(「特色学科」)が数多く設置されます。山城(文理総合科)、城南(教養科学科・単位制)、福知山(文理科学科)の3校で文理系専門学科が、八幡・南八幡が統合した京都八幡高校の南分校(旧南八幡校地)には人間環境科が、さらに塔南に教員養成をめざす「教育みらい科」が新設されます。また、園部の京都国際・福祉科は「京都国際科」に改編します。これらはいずれも府内全域を通学区域とし、適性検査実施による選抜を行います。

(4)職業系専門学科は、統廃合にともなって南八幡の商業系学科(流通マネージメント・オフィス情報)が廃止、洛陽・伏見の工業系学科もそれぞれ創造技術科・システム工学科に再編され、募集定員を削減しました。田辺は電子・電気・機械の各学科が「工業技術科」として一括募集に変更になり、全学科で府内全域が通学区域となります。

(5)定時制は、桃山定時制普通科を80名から40名に1学級減、洛陽の定時制課程を全廃しました。伏見は昼間定時制(システム工学科・キャリア実践コース)を新たに設置、夜間定時制(工業技術科)とも30名ずつの定員をおいています。

(6)選抜制度では、推薦入学の募集枠を「50%程度又は70%程度」としていたのを、新たに「30%程度」を入れました。2006年度入試で新たに導入した「長期欠席者特別入学者選抜」を、朱雀・城陽・西舞鶴の3校で引き続き実施します。
今回の選抜要項には、子どもたちに豊かな高校教育を保障する上で重大な問題点があります。以下に私たちの見解と要求を明らかにするものです。

2.社会的格差を拡大させる普通科べらしと「特色学科」の定員増

第1の特徴は、通学圏内の子どもが通う普通科の募集定員をへらし、いわゆる「特色学科」の定員を増やしていることです。
全日制の募集定員は、全体としては160名の削減ですが、その内訳を見ると、重大な問題が含まれています。まず普通科では、全体で300名の減ですが、 I 類・ II 類が合計360名の減になっています(単位制・総合選択制も60名減)。一方で、広い範囲を通学区域とする洛北(付属中学校からの増加分)と III 類(紫野・英文系)が120名の増になっています。
一方、専門学科の動向を見ると、工業・商業などの職業系専門学科は、学科再編にともなう増減はあるものの、全体として160名の削減で、近年続いてきた「職業科つぶし」の方向がいっそう進行しています。それに対して、「特色学科」は新設ラッシュによる200名増で、西京(付属中学校からの増加分)と合わせて320名の大幅増となっています。
通学圏ごとに見ても、その傾向は明らかです。例えば、毎年多数の不合格者を出して、「他の通学圏より公立高校に入りにくい」といわれる京都市北通学圏(北区・上京区・中京区・右京区・下京区の一部)では、年々「特色学科」が増えて、2007年度は普通科定員1480名に対して「特色学科」は760名となっています。また京都市東通学圏では、洛北の付属中学校からあがってきた2学級分をそのまま I ・ II 類で削減しています。
これらは府・市教委が推進する「特色化」政策によるものです。嵯峨野・堀川を皮切りに、近年雨後の竹の子のように新設された「特色学科」とは、『京都新聞』が特集記事の中で「受験専門学科」と記したように、「大学受験を目的とする専門学科」です。新設の城南が実施した説明会でも、「少数精鋭で手厚い指導」(『城南新報』)、「大学進学を最優先課題にした少数精鋭のカリキュラムを実施」(『洛南タイムス』)と強調しているように、成績上位の「少数精鋭」を集めることに血眼になっています。その際、府内全域を通学区域として広く志願者を集め、適性検査で早期に選抜するなど、専門学科にしか認められていない “うま味”を最大限使っています。
こうした「特色学科」や中高一貫校の募集定員を増やし、地元の子どもたちが通う普通科をへらすことが、社会的格差の拡大につながることを指摘しなければなりません。例えば、2004年度入試から通学圏を統合して普通科の通学区域を拡大した山城地域では、地元の高校に通えないことで高校進学自体をあきらめる子があったり、中途退学する生徒の中で遠距離通学者の比率が高い実態が報告されています。また私たちの調査によると、大学進学率が高い高校と低い高校を比較すると、授業料減免を受ける生徒の比率が最大で5.5倍になることが明らかになりました。これは、「家庭の経済力の差」が確実に「学力の差」を拡大していることを示しています。さらに「特色学科」などを選択できない、学力や経済面で困難を持つ子どもたちにとって、高校教育を受ける機会が事実上狭められることを示しています。
大阪府では、経済的低位者が多い地域では、高校統廃合などで地元高校の入学枠が狭まった場合、他地域に比べて高校進学率の低下が大きいことが報告されています。京都府でもこうした事態が起こりかねません。専門学科設置にともなう通学区域の拡大が、学区制度と総合選抜を事実上なし崩しとし、セーフティネットの機能を喪失させているのです。

3.全国で例を見ない、志願者があふれている桃山定時制での募集定員削減

第2の特徴は、桃山定時制の普通科40名減、洛陽定時制の募集停止など、京都市内の夜間定時制を大幅にへらしていることです。
桃山定時制は、伏見区と宇治以南の山城地域を中心とした地域に唯一置かれている夜間定時制課程です。とくに山城・洛北・堀川の3つの定時制が強引に廃止された1997年以降、桃山定時制の普通科は一貫して1次入試の志願者が1倍を超え、1次募集で定員が充足されています。とくに1999年度入試では、1 次募集の倍率が1.47倍にもなって多数が不合格になりました。「定時制の狭き門」といわれ、さまざまな事情で定時制の門を叩いた子どもたちから高校教育の機会を奪ってきたのです。
こうしたことを考えた場合、今回の措置が志願者があふれる高校の募集定員をへらすという、いかに常識をはずれたものであるかは明白です。洛陽・伏見の募集定員削減も合わせると、京都市南部や山城地域はもちろん、他地域への大きな影響が予想されます。
桃山定時制の定員削減について、府教委は「京都市南通学圏で中学卒業予定者が154名へるので、鳥羽(全日制)と桃山(定時制)で1学級ずつへらした」と説明しています。また京都市教育委員会の席では、「定時制のへった分、全日制の枠を広げた」と述べました。これが数字合わせの言い逃れであることは、「少子化」といいながら定時制の志願者がへっていないという、この間の推移を見れば明らかです。
定時制が不登校などさまざまな事情で全日制に通えない子どもたちを多数受け入れてきたことを考えると、2の項で述べたように、高校に行くこと自体をあきらめざるを得ない子どもたちを大量に生み出すことにつながります。府教委は、「柔軟な教育システムに係る懇談会」で不登校の子どもたちの問題を検討しながら、その一方で定時制べらしを公然とすすめる二面的態度をとっています。京都市教委も同様です。
定時制をつぶして安上がりの教育をすすめようとする、今回の不当な措置はただちに取り消すべきです。

4.「特色競争」「生徒集め競争」のもとで進行する公立高校のゆがみとモラルの崩壊

第3に、京都の公立高校で進行する異常なまでの「特色競争」「生徒集め競争」が、深刻なゆがみとモラルの崩壊をもたらしていることを指摘しなければなりません。
現在、京都の公立高校は1990年代後半に続く“第2の特色学科ブーム”が起こっています。それぞれが異なる学科名を掲げて、府内全域から生徒集めに奔走しています。それが「特色学科」の成否を決めるのは、「同じパイの中から優秀な生徒をどれだけ集められるかで、高校の進学実績が決まる。それが現実」(2005.8.19『京都新聞』)という八幡高校長の認識が端的に示しています。「受験専門学科」である以上、いわゆる「難関大学」への進学実績をどれだけあげるかがすべてであり、その成否のカギを握るのが「優秀な生徒集め」となるのです。
こうした異常な競争主義が生んだゆがみを象徴するのが、2007年度に「特色学科」を立ち上げる山城高校で起こった事態です。8月末、京都市内の新聞折り込みで「京都府公立難関校研究部会」という10の進学塾で構成する団体が、山城高校の「専門学科説明会」を開催するというチラシが入りました。進学塾主催の説明会を平日の授業中に山城高校の会議室を使って開催すること自体が考えられないことです。わざわざ「保護者の方は、特別に『入試までの勉強法』を説明…。あまり公表できない内容も含まれますので、20名様限定でお願い致します」という注意書きまであります。校長は教職員の質問に対して、「本校との共催である」「説明は本校がする」と回答し、同様の話があれば「喜んで受ける」としています。公立高校が一部の塾関係者に特別な便宜を図っているとしか思えないもので、公立高校ではあってはならないことです。
最近、学校現場からは「校長が説明会で隣の高校を『一番ランクが下だ』と名指しした」(口丹地域高校)、「校長が『(通学圏が統合したら)隣の高校がライバルになる』とハッパをかけている」(京都市内高校)、「進路部長がまとめた部の目標を教頭が『国公立大20名以上』と勝手に書き換えた」(北部高校)といった報告が寄せられています。また京都市内のある高校では、普通科単独校であるにもかかわらず、「中学校訪問が年間100回を超えた」としています。山城高校の件は氷山の一角にすぎません。その責任が「特色競争」「生徒集め競争」に追い立てる教育委員会にあることは明らかです。

5.現行制度の破綻は明白、高校入試と高校教育改善のために次のことを要求します

私たちは、「希望する子どもたちに豊かな高校教育を保障する」という、公立学校として当然の責務を果たすために、当面次の点を中心に改善すべきだと考えます。

(1)山城地域の高校統廃合、市内の夜間定時制の統廃合、北部での分校統廃合など、高校つぶしの諸計画やその計画策定をただちにやめること。子どもたちが安心して学べるよう、教育条件整備に力をつくすことを要求します。
(2)通学圏の拡大や入試制度の多様化をやめ、格差の拡大に歯止めをかける総合選抜制度の充実を図ること。適性検査など一部の高校に生徒集めの「特権」を与える制度をただちに廃止し、推薦入試を実施する場合は推薦基準を明らかにするなど、入試の透明化・公正化を図ること。子どもたちの中にいっそうの競争を持ち込む入試制度を改善するよう要求します。
(3)矛盾が深まっている全日制普通科の類・類型制度を廃止すること。多様な進路希望を持つ普通科での30人学級実現や多様な選択科目の保障など、教育条件の整備をすすめるよう要求します。
(4)夜間定時制べらしをただちにやめ、学級定員を20名以下におさえるなど、定時制・通信制の教育条件整備に力をつくすこと。学校現場の意見を踏まえた定時制・通信制教育の将来展望を明らかにするよう要求します。
(5)長期欠席者の特別入学者選抜制度は、当面実施校での努力を支えるための教育条件整備をすすめるとともに、一部の学校まかせにせず、どの公立高校でも受け入れられるよう改善していくことを要求します。
(6)同一通学圏での学校規模のアンバランスを改善し、適正化を図ること。
(7)総合選択制導入など普通科のシステム変更や学科改編などは、あくまで学校現場の自主的な議論と研究を尊重すること。教育委員会が高圧的に押しつけることがないよう要求します。
(8)高校入試問題を議論する場として、以前開催されていた「入試選抜協議会」を再開させ、入試改善に向けて広く意見を聞くこと。高校制度にかかわる検討委員会や懇談会には、教職員組合の代表参加と、現場教職員の意見を取り入れた施策をすすめるよう要求します。

社会的格差の拡大に拍車をかける今回の選抜要項は、いっそうの競争原理導入で「勝ち組」「負け組」を振り分けるという、政府・与党がすすめる教育基本法改悪と軌を一にするものです。今求められるのは格差をいっそう拡大させることではなく、希望するすべての子どもたちに等しく高校教育の機会を保障することです。
私たち府立高教組は、多くのみなさんと力を合わせ、民主的な高校制度確立と入試制度の改善のために、いっそう努力することを表明するものです

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