「京都市・乙訓地域公立高校入学者選抜に係る懇談会」のまとめに対する見解

「京都市・乙訓地域公立高等学校入学者選抜に係る懇談会」は、6月26日に両教育委員会に対し、「まとめ」を提出しました。府立高教組は、この「まとめ」について見解を表明しました。

2007年6月30日 京都府立高等学校教職員組合執行委員会

京都府教育委員会と京都市教育委員会が設置した2007年4月に設置した「京都市・乙訓地域公立高等学校入学者選抜に係る懇談会」(以下「懇談会」)は、6月26日に両教育委員会に対し、「まとめ」を提出しました。その主な内容は、①現行の4通学圏を2通学圏に統合、②総合選抜制度の維持、③「通学圏を越えるシステム」の導入と部活動・特別活動による「希望枠」の拡大、④「受験機会の複数化」や「多元的評価尺度による選抜」の導入です。府立高教組は、このまとめについて以下のような見解を表明します。

こんなに拙速に決定していいのか、異常な懇談会運営

懇談会は4月27日の第1回以降、ほぼ10日に1回という異例の早いペースで開催されました。わずか1ヵ月余りの期間に5回の懇談会を重ね、なかなか意見の一致を見ていない状況であるにも拘わらず、6月8日の第5回目の懇談会で事務局から強引に「まとめ案」を提出し、最終の意見を求めました。しかし、ここでも意見が噴出し、府立校長の委員から「議論も出尽くしていない。一言でまとめることには了解しがたい。現状の方がましだ。さらに審議が必要」との意見が出される始末です。結局、懇談会は打ち切られ、懸念される問題点や課題について、十分な検証と解決方向も示されないまま妥協的な結論になっています。なぜ、そんなに結論を急ぐ必要があるのでしょうか。

現場の教職員や教職員組合、父母、子どもたちや意見を聞こうとしない

今回の「懇談会」の設置については、事前に教職員組合に何の連絡もなく、現場の教職員も新聞報道で知った状況です。また、懇談会において教職員組合や現場教職員の意見を述べる機会すら与えられないなど、教育委員会が交渉等で表明している「説明責任・職員の英知の結集」という基本姿勢からもかけ離れています。これらは、国際的な基準(ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」では「教員団体は、…教育施策に決定に関与すべき勢力として認めなければならない」と規定しています)からみても、従来の経過からしても極めて不当な対応といわざる得ません。
子どもたちや父母、府民、教職員にとって大事な問題を、現場の教職員、父母、子どもたちや教職員組合の意見も聞こうともせず、こんな拙速なやり方で今後の通学圏の在り方や入試制度の方向性を決定する「まとめ」を出してしまうことに強く抗議するものです。

高校教育制度の矛盾と問題をもうこれ以上覆い隠せなくなった

この間、京都市・乙訓通学圏において、府教委・市教委は競い合うように中高一貫校や大学進学に特化した専門学科などを新設し、普通科の定員削減と中高一貫校や「特色学科」の定員増の施策を実施してきました。とりわけ、毎年多数の不合格者を出している北通学圏においてはその傾向が顕著に表れています。また、単独選抜を実施している II 類や専門学科における定員割れは、公立高校に入学したくてもできない生徒を少なからず生み出す結果をもたらしています。こうした現象は、類・類系制度が破綻していること、府内全域を通学圏とする専門学科の増設が中学生や父母の要求とはなっていないことを如実に示しています。
しかし、府・市教委はこうした実態を懇談会の中で報告もせず、委員にもほとんど知らされない形で審議が行われました。懇談会でも「具体的なデータをしめしてほしい」「専門学科と普通科の関わりを抜きに考えられない」「 I ・ II ・ III 類を取っ払っても良いのではないか」などの意見も出されました。現在の制度のもつ根本矛盾と問題は、議論すればするほど噴出してきます。府教委・市教委は、これらをこれ以上覆い隠すことができなくなったため、現行制度の問題点を十分分析しないままで結論だけを急いで、矛盾を競争と格差・序列化を拡大する方向での「見直し」をはかろうとしています。府・市教委が一方的に「まとめ」を押しつけたことを府・市民の目から隠すために、短期間の懇談会での議論を行ったのがことの本質です。

「通学圏の統合と選抜制度の見直し」ありきですすめられた懇談会だが

懇談会は、「希望する高校を選べるシステムづくり」のために「通学圏の統合と単独選抜を中心とした選抜制度の見直し」という教育行政の思惑を前提にして議論がはじまりました。しかし、PTAの代表の委員からは「はじめから通学圏を必ずかえないといけないと会議に臨んでいない。今のままでもいいと思っている」という意見が出されるなど、懇談会のすすめ方自体にも重大な問題があります。
議論がすすんでいくなかで、子どもたちの実態や父母の要求を掘りさげれば掘りさげるほど、教育行政がすすめようとする「通学圏の拡大、単独選抜導入」という施策との矛盾が吹き出しています。府教委の思惑を代弁する府立高校校長の発言に対して、中学校現場からは、「行きたい学校に行けるのは一部の生徒で、遠くても行ける学校を選ばされる実態」「単独選抜では多くの不合格者が出る事実」「大学進学実績を基準にした高校の序列化の進行と輪切りの進学指導が強いられる」「高校間の格差が拡大、定着」「不合格を恐れて私学受験の増加」、「通学費など経済的な負担増」などの弊害や問題点が数多く出されました。これらの懸念は、府教委の実験場として通学圏の拡大と単独選抜導入、高校再編が先行してすすめられてきた山城通学圏で実際起こっていることです。
また、PTA代表の委員からは「山城通学圏で起こっている学校間格差や単独選抜の弊害もあるように思う。山城地域でのいい点、弊害を聞きたい」との意見も出されました。まず山城通学圏で起こっている実態について、山城通学圏の子どもたち、父母、府民、現場の教職員の意見をしっかりと聞いたうえで、十分検証し、説明責任を果たすことこそ教育行政の役割のはずです。しかし、この要望にはまったく耳を貸さず、説明責任すらはたさないまま審議がすすめられました。

通学圏拡大と通学圏を超えて受験できるシステム導入で、序列化が進行

懇談会では、通学圏について「4つのままでもいい」という意見と、教育行政側の1つにしたいという思惑となかで、最終的には妥協案として2通学圏が望ましいと結論づけています。論議のなかから、現行の4つの通学圏ではなぜいけないのかという説得力のある理由は見い出せません。
また、「普通科 I 類・ II 類ともに通学圏を越えるシステムも必要」としています。これにより、実質的に1つの通学圏と同じはたらきをもたせ、より「学力」が高い中学生を特定の学校に集めることが可能となります。通学圏の拡大によって、より公立高校の格差が拡大し、序列化を加速させることにつながります。

一層深刻な問題を引き起こす「受験機会の複数化」と「多元的評価尺度による選抜」導入

まとめでは、「普通科においても、生徒の学校選択の機会を広げ、生徒が主体的に進路選択できるように『受験機会の複数化』や生徒の多様な能力・適性、興味・関心などを適切に評価するために『多元的な評価尺度による選抜』を導入することも必要」としています。懇談会の中でも、学力試験で合格が難しい中学生をなんとか高校に入れたいとの思いから、「受験機会の複数化」と「多元的評価尺度」を求める中学校側の意見が出されました。
現在、山城通学圏や口丹以北の通学圏では、これらの具体化である「前期特色選抜」が導入されています。この新しい選抜により少しでも合格の可能性が広がるのではないかとの期待は全くの幻想に終わっています。内申書と作文や面接で合否を判断する「前期特色選抜」は、山城通学圏の実態を見れば明らかなように、結局は成績がよく、部活動や特別活動を熱心にやっている一部の生徒のみを青田買い的に早い段階で取ってしまう高校側の発想から導入されたものです。その結果、多くの生徒に不合格を体験させ、「不合格から一般入試にむけて立ち直るまでに1~2週間はかかる」など、中学校生活やその後の高校生活にも影響を与え、「15の心をゆがませる」原因になっています。また、この不合格の体験が、その後の一般選抜(AT)における志望校選択にも影響し、希望校を変更させるなど多くの受験生を悩ます結果ともなっています。さらに、「前期特色選抜」は、そもそも面接や作文など「競争選抜」としての客観性が保ちにくいものを利用していることやその配点基準も明らかにされないなど入試自体が不明瞭であるという問題も指摘しておきます。この点についても山城通学圏の実態を明らかにし、その検証が必要となっています。 私立高校にも行けない経済的困難な家庭の子どもが安心して高校へ行くことができるようにするためには、公立高校の収容率を上げること、特色のある専門学科を増やすのではなく、普通科や定時制の定員を増やすことこそ必要な施策ではないでしょうか。

通学圏拡大と入試制度改変は高校統廃合への一里塚

懇談会では府立高校の統廃合に言及した発言もありましたが、山城通学圏での経過からしても、通学圏拡大・入試制度改変の後には必ず高校再編に手をつけることが予想されます。現在すすめられている新自由主義的な「教育改革」のねらいは、教育への税金投入を極力減らす点にあります。単独選抜制を導入して、学校間に序列化をつくり、「人気がない高校」は統廃合し、教育予算を減らすというのが、京都でも全国でも起こっている行政の常とう手段です。

ますます輝きを増す「総合選抜制-地域性」という京都のよさ

懇談会の議論のなかでも「総合選抜制-地域性」という京都のよさを守ってほしいという多くの意見が出され、「まとめ」でも「総合選抜制は残す」とするなどとした点は重要です。全国で「総合選抜制」が次々とつぶされていくなかで、京都においては「高校三原則つぶし反対」の府民的な大運動以降も、継続して高校制度についての粘り強い府民運動がすすめられてきましたが、そうしたことの反映でもあります。そのような流れに対して、競争と格差拡大の「教育改革」を推進しようとする教育行政の思惑とのつなひき状態が懇談会での論議の姿ではなかったでしょうか。

教育の格差を縮め、子どもたちの修学権を守るとりくみを

京都市通学圏においては、すでに中高一貫や専門学科を増設することにより、実質的に全府から「優秀な」生徒を集めることが可能になっています。そのうえ、今回の通学圏の拡大と通学圏を越えた希望枠の拡大によって、「総合選抜制」を維持するとは言え、実質的に京都市・乙訓地域1通学圏に近づき、全体としては単独選抜がより強化される方向へすすむことが予想されます。このことにより、懇談会でも指摘されていたように学校間の格差がより拡大し、より地域から切り離された公立高校へと変貌することが危惧されます。
いますすめられようとしている方向は、国連「子どもの権利委員会」の2回にわたる日本政府へ勧告の内容「競争意識をあおる教育制度が子どもの成長をゆがめている」にも逆行しています。私たちは、いっそうの競争原理の導入で「勝ち組」「負け組」を振り分けるという教育格差拡大の施策に反対です。今求められているのは、格差をいっそう拡大させることではなく、希望するすべての子どもたちに等しく高校教育の機会を保障することです。どの公立高校へ行っても、どの子にも確かな学力と発達を保障するという本来の高校教育を、地域の父母・府民と教職員が共同してつくりあげることが重要です。そのことを可能にする教育条件整備をすすめることこそ、今、教育行政に求められている重大な責任です。

教育行政は、市民・府民的な徹底した議論の保障を

府教委・市教委は、この「まとめ」を受けて、通学区の区割りや入試制度の見直しの具体化の検討に入ります。そして、早ければ2009 年度入試からの導入されることが報道されています。パブリックコメントなどの予定は明らかにはなっていませんが、子どもたちの進路と将来がかかった制度論議について、拙速な施策化をはかることなく、学校現場をはじめ、PTA、中学生、市民・府民との徹底した論議こそが求められています。今回の「まとめ」を素材にして、教育行政の責任であらためて市民的、府民的な論議を起こすことを提言するものです。

*「懇談会」の「まとめ」全文は、京都府教育委員会HPで見ることができます。

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